【コラム】「ボールであそぼう」 第4回 諸外国と日本との国際比較

2010年 4月 29日

日本トップリーグ連携機構「ボールであそぼう」連載(全8回)


4.諸外国と日本との国際比較

〔活動的な身体活動の国際比較〕


 ユネスコがバックアップして実施した調査があります。これは、スポーツ、健康、レクリエーションに関する調査で、日本では笹川スポーツ財団が調査をしました。この表は、世界各国の子ども(11歳を対象)の活動的な身体活動に対する国際比較です。「活動的な身体活動」の定義は「1回30分以上、心拍数(脈拍)が120拍以上」というのを一つの基準にしています。週2回というのは、学校から帰った後、月曜日から金曜日までの平日に、週2回以上やっている子という意味です。
 週2回以上スポーツを実施しているかどうかといった質問に対して、オーストリアは男子89%、女子83%です。全体で、20ヵ国で比較した中で、日本は男子37%、女子27%となっています。日本は、この調査を行った国々の中で最下位となり深刻な状況です。
 これは5年前くらいのデータですが、一位がオーストリア、二位がドイツ、三位はアメリカ、四位はフランスです。この調査は、適当な調査ではなくて、大都市、中都市、小都市、都心、都会、郊外、農村、漁村といった、あらゆる子どもたちを網羅できるようにデータを取っています。
 日本では、北海道から沖縄まで、様々な都市でデータを取って、日本の平均的なデータを取っています。日本の子どもたちは、男の子が37%、女の子が27%。他の国からみると、圧倒的に少ない値になっています。このグラフでは、フランスの隣に日本のグラフが載っていますが、フランスと日本の間にいくつかの国が入ります。日本は、世界で最も運動をしていない小学校高学年がいる国ということになります。

〔日本における運動習慣の調査〕

 今、話題の事業仕分けでは、文部科学省の事業も削減の方向になっているものがあります。「全国体力・運動能力、運動習慣等の調査」です。これは、平成20年から始めているものです。
 体力テストは、第1回目で紹介した体力テストに加えて体力調査(運動習慣、生活習慣の調査)を実施しています。対象は、小学校5年生と中学校2年生で、約210万人の子どもたちのデータが集めています。全データを取った子どもたちに対しては、どんなふうに運動をしているかなど細かなデータを含め、一人一人にすべてのデータをフィードバックしています。
 この2年間の調査の結果からわかったことは、今の小学校5年生の男の子の25%、女の子の30%は学校から帰ったあと、それから土日を含めて全く運動をしていないということです。少年団もクラブもスイミングも何もやっていませんし、子ども同士で遊ぶこともなく、全く体を動かしていないという子どもが25%~30%います。
 中学校になると、もっと割合が増えることもわかりました。中学校2年生の女子においては、放課後、土日を含めて6割は運動をしない危機的な状況です。学校の女の子は男の子に比べてスポーツを行うのに選択する種目が少ないという議論もありますが、日本の子どもたちは、今、運動をしている子どもが少なくなっています。

(日本トップリーグ連携機構提供)

【コラム】「ボールであそぼう」 第3回 運動実施状況の二極化と二局化

2010年 4月 15日

日本トップリーグ連携機構「ボールであそぼう」連載(全8回)


3.運動実施状況の二極化と二局化

〔幼少児の運動実施状況の二極化と二局化〕

 


 1980年代半ばから日本における、6歳から19歳のすべての年齢で、子どもたちの体力や運動能力の平均値が下がりました。体力・運動能力に最も関与する要因というのは運動実施状況です。子どもたちの運動実施状況は、活動的な子どもと非活動的な子どもの二極化が進み、基本動作の習得や身体活動量の差(幅)が広がっていることが考えられます。
 私たちは、他にも問題と感じていることがあります。それは、活動的で運動している子ども、スポーツをやっている子どもたちは本当に大丈夫なのか?という点です。その理由は、多くの幼稚園、保育園、小学校に通う子どもたちが、一種目のスポーツに偏っているように感じるからです。3歳、4歳の頃から、ある特定のスポーツだけしかやっていない場合、運動量は確保できますが、その特定のスポーツに含まれている動きしか身についていないことが考えられます。
 いろんな遊びやスポーツを経験して、小学校高学年や中学生頃からスポーツを選択していくことが、子どもの発育発達段階には合っています。




 皆さんが子どもの頃、学校から帰った後、友達と遊ぶときに、どんな遊びをしたでしょうか。年代によっても異なると思いますが、男の子だったら、三角ベースや野球、鬼ごっこ、メンコで遊んでいたと思います。女の子も、なわとびや鬼ごっこ、かくれんぼなどをして遊んでいたでしょう。子どもたちの昔の遊びの中には、遊びが変わることによって、いろんな動きが自然と身につけられるというシステムができていました。これは、誰かが考えたのではなくて、自然に子どもたちの遊んだ結果として、いろんな動きが身についていました。
 そして、三角ベースといった、いわゆる子どもながらのスポーツを真似した、スポーツもどきの遊びをいっぱいやっていました。サッカーも、11人が集まって、練習やトレーニングをするのではなくて、草原で、何かをゴールに見立てて、サッカーの遊びをしていました。集まった人数や場所に合わせて、子どもたちで工夫して遊ぶことを繰り返していました。
 理想論を言うと、この複数の運動遊びやスポーツをすることが、特に幼少年期の頃には大切です。実は、運動をしている子どもの中にも問題があって、運動量は確保できても、動きが身についていない、というもう一つの「二局化」についても大人は注意する必要があります。

〔運動量の減少〕

 昭和40年代、50年代の小学生の歩数を調査したデータが残っています。このデータをみると、昭和40年代、50年代の小学生の一日の平均歩数は、都会も地方も同様に、20,000歩から23,000歩くらいありました。ところが、10年くらい前から、小学生の歩数の平均値を出してみると、平均10,000歩から13,000歩くらいになっています。これは、昭和40年代、50年代の子どもたちから比べると、今の子どもたちは、半分の運動量しかないことになります。
 小学生が10,000歩くらい歩けば十分ではないかと思うかもしれませんが、子どもたちは大人と比べると、半分くらいの歩幅しかないので、運動量としては、大人の5,000歩程度と考えてください。昔の子どもは20,000歩ということは、大人の10,000歩に相当しますので、健康によいといわれる運動量がありました。
 今の子どもたちは、非活動的な子どもが増え、歩数も減り、運動量も減って、活動量は減少し、動作も身についてこないということがわかってきました。子どもの体力低下、運動量の低下は、体力テストなどの数値だけではなくて、動き、あるいは運動量が関係しています。

(日本トップリーグ連携機構提供)

【コラム】「ボールであそぼう」 第2回 子どもの生活習慣病

2010年 4月 4日

日本トップリーグ連携機構「ボールであそぼう」連載(全8回)


2.子どもの生活習慣病

〔生活習慣病の増加〕




 生活習慣病は、肥満と合わせて問題になっています。最近では、肥満の子どもが、糖尿病や高血圧症、高脂血症、腎疾患といった生活習慣病になっているという報告があります。生活習慣病は、もともとは成人病という名前のとおり、大人がかかる病気でした。
 今から17~18年前、子どもの体力低下が始まった頃から、糖尿病や高血圧症の子どもが出てきました。実際、日本の小学校低学年の中には、糖尿病でインシュリンを打っている子どもが数百名います。子どもが成人病になってしまったので、当時の厚生省は「一時小児成人病」と名前をつけました。「子ども大人病気」とは名前はおかしな感じがします。その名前からは、病気の特徴がつかめないので、病気の原因を考えて、「生活習慣病」になりました。
 日本は、他の国と比べると、子どもの頃から高血圧症、高脂血症になる人は少ないと言われています。将来的には、小学生が中学生、高校生、あるいは大人になったときに、同じような病気になる可能性があります。

〔子どもたちの体温異常〕

 最近では、アレルギーや体温異常の子どもも増えています。体温異常にはいくつかの例があります。
 熱中症になる子どもの中には、汗が出ない子どもがいます。汗をかくためには、一歳半から三歳半くらいまでの間に、暑い経験と寒い経験を繰り返して、汗をかく能力が身につきます。しかし、今の子どもの生活状況を見ると、暑くなるとすぐにクーラーがつきますし、寒くなると床暖房が入って、ファンヒーターが入ります。その結果、自分で体温を調節する機能が必要なくなり、もともと持っていた汗腺という機能を発揮できず、発汗がうまくできない子どもが出てきています。
 低体温というものもあります。普通、人間の体温は、特に病気をしなければ、36.5度前後と言われていますが、一日の大半を36度、上がっても36.2度くらいという低体温の子どもがいます。現在、5歳児から8歳児くらいの子どもを調べてみると、5人に一人は低体温を示す結果が出ています。
 もう一つは高体温です。常に37度台くらいで過ごしている子どもがいます。普通、体温は、熱っぽいと感じたときや病気をしたときとかにしか測らないのですが、朝と昼と夜に2週間あるいは1ヶ月くらい測る実験を行った結果、高体温になる子どもがいました。

 変動異常の子どももいます。朝起きたとき、人間の体温は低く、顔を洗ったり、シャワーを浴びたり、歯を磨いたり、ご飯を食べたりといった、体を動かす中で、体温が上がっていきます。一日の中で一番体温が上がるのは、日中の11時から14時くらいです。そこから活動が低下するにつれて、徐々に体温も下がっていきます。この体温の変動幅は通常大人も子どもも同じで0.2度から0.4度と言われています。この幅が極端に広い場合を変動異常といいます。
 変動異常の子どもは、一日のうちに1度くらいの幅をもって体温変動をしています。あるいは、0.1度未満でほとんど変動しない、全く体温が変動しない子どもがいます。

〔ウイルスに弱くなっている〕

 近年、新型インフルエンザが流行りました。大学でも流行して、スポーツの大会が中止になったり、教育実習が中止になったりといった影響がありました。普通、幼少年期の子どもたちは、体が成長するにつれて免疫力は高いと考えられています。しかし、日本では、新型インフルエンザにかかる人口の6~7割が子どもでした。他の国では、3~4割に抑えられています。
 本来ならば、ウイルスが体の中に入っても発病しないというのが子どもの特徴です。しかし、日本の子どもは、体が非常に弱くなってしまっています。国際大会に出場する選手の中でも、日本の子どもたちだけが病気にかかってしまう状況も実際にはあるようです。



 子どもたちの生活の中ではケガが多かったり、病気をしていたり、いろんな防衛的な反応がすでに侵されてしまっています。体力低下を解決するためには、単に各体力テストの数値を上げることではなくて、子どもたちの生活全般から考える必要があります。

(日本トップリーグ連携機構提供)

【コラム】「ボールであそぼう」 第1回 子供の体力低下 

2010年 4月 2日

日本トップリーグ連携機構「ボールであそぼう」連載(全8回)

 本連載は、全8回にわたって、子どもの体力低下の現状や、どのような体力・運動能力向上に関する取り組みがなされているか、あるいは諸外国の取り組みもご紹介しながら、よりよい子どもたちのスポーツのあり方を考えていきたいと思います。
 幼児期から小学校にかけての子どもたちに、運動遊びを提供するには、どのようなことを考えていけばよいかということも紹介していきます。

1.子どもの体力低下

〔子どもの体力低下〕

 子どもの体力・運動能力低下は、社会的な問題となっています。2009年10月12日「体育の日」の新聞やニュースによると、子どもの体力は少し向上したと伝えらました。文部科学省スポーツ青少年局生涯スポーツ課が、子どもの体力について取り扱っており、プレス発表もされました。しかし、実際に調査した研究者によると、「向上しているわけではない」ことを明らかにしています。
 子どもの体力向上に関して、さまざまな取り組みも行われ、その努力によって多少の変動はあります。しかし、今の状況は、向上したのではなく低下してきたものが底をついた、という表現が正しいでしょう。私たちは、上向きに向上していくわけではないと考えています。この状況は、何年か経つと、再び低下をして向上することが予想され、低下と向上を繰り返すような状況にあると思われます。




〔子どもたちに増えてきているケガ〕

 最近の子どもたちは、今までは考えられなかったケガをしています。つまずいて転んで、手をつけない子どもがいたり、危険を感じても危険を回避できない子どもがいたりします。
 例えば、小学校の体育の時間や休み時間、昼休みなどに、子どもたちはドッヂボールをよくやります。ドッヂボールが自分の顔の高さに飛んできたときに、それをうまく捕ることができません。捕ることができないどころか、飛んできたボールをよけることや、はたくこともできず、顔面にボールを当ててしまう子どももいます。
 さらに、深刻なケガとして、顔面にボールが飛んできたときに、目が閉じられないという事態が起きています。その結果、眼球損傷で失明した子どももいます。こういった報告からもわかるように、子どもたちは、いろいろな動きの経験の不足から、動きが身につかず、今までにはなかったさまざまなケガをしています。
 他にも、子どもの頃、階段を往復したり、飛び降りたりして遊んでいたと思います。運動能力の高い子どもは、おどり場くらいから飛び降りて遊ぶ光景がありました。最近では、そうやって遊んでいても、高さ50cm程度の高さくらいから飛び降りて、両脚を骨折する子どもがいます。骨がもろくなっていることが一つの原因ですが、飛び降り方がわからないということも関係しています。飛び降りるときに、足関節、膝関節、股関節といった下半身の3つの関節をうまく使って、車のダンパーのように力を逃がすことができません。そういった動きをしたことがない子どもは、力を吸収できずに脚を骨折してしまいます。
 つまずいて転んで手がつけない、ボールが飛んできて目が閉じられない、といった現象は、もともと人間が持っていた最低限の危険回避能力を、今の子どもたちは身につけていないということです。そのくらい運動経験が少なく、危機的な状況が出てきています。

〔体力テストによる評価〕



 近年問題になっている体力低下は、新体力テストというスポーツテストの指標を用いて評価しています。日本では、1964年東京オリンピックの年から、子どもの体力や運動能力を測定する体力テストを実施しています。1998年からは、新体力テストという名前に変わりました。対象の年齢を変えたり、立位体前屈から長座体前屈に変えたり、持久走をシャトルランにしたりと種目を少しずつ変える経緯はありましたが、毎年実施する中で、基本的に評価しているものが4つあります。
 1つ目は力を発揮する能力です。体力的な要素で考えると、筋力やパワーになります。2つ目は持久力です。筋持久力、全身持久力といったものも含めた、長く運動する能力です。3つ目は、体をコントロールする調整力です。最近では、コーディネーションといった言葉が近い内容で、自分の体をコントロールする能力です。4つ目は、以上の3つを総合した運動能力になります。これら、4つの軸を中心に子どもの体力・運動能力を評価してきました。
 この体力テストの結果から、日本の子どもたちの体力・運動能力の低下が始まったのは、1980年代半ばからということがわかっています。文部省(’97年当時)の「体力・運動能力調査報告書」のグラフを参照すると、11歳を対象とした一つの典型として見ることができます。6歳から19歳までのすべての年齢においても、同じように子どもたちの体力や運動能力の平均値は下がっています。

(日本トップリーグ連携機構提供)